カーナビのGISというキーワードで検索されたあなたは、カーナビの地図がどのようにして現在地を正確に表示し、最適なルートを案内してくれるのか、その裏側にある技術について知りたいと思っているのではないでしょうか。
この記事では、カーナビの基本技術「GIS」とは何かという基本から、カーナビにおけるGISの役割と仕組み、そしてGISがもたらすカーナビの3大メリットまでを分かりやすく解説します。
さらに、VICSや3D地図を支えるGIS技術や、GISで実現する正確な渋滞予測のメカニズムにも深く触れていきます。
スマホナビと専用カーナビのGIS活用の違いを多角的に比較し、カーナビの精度は「地図データ」とGISで決まる理由を解き明かしながら、GISを応用したカーナビの便利機能も網羅的に紹介。
最終的には、GISの視点で選ぶカーナビのポイントを理解し、「自動運転」の鍵を握るGISの未来についても展望します。
初心者にもわかるカーナビのGISの基本
- カーナビの基本技術「GIS」とは?
- カーナビにおけるGISの役割と仕組み
- GISを応用したカーナビの便利機能
- GISがもたらすカーナビの3大メリット
- VICSや3D地図を支えるGIS技術
- GISで実現する正確な渋滞予測
カーナビの基本技術「GIS」とは?

カーナビの性能や機能を語る上で欠かせない心臓部の技術、それがGIS(Geographic Information System)です。
日本語では一般的に「地理情報システム」と訳されます。
これは単なるデジタル地図を表示するソフトではなく、地図が持つ位置情報(空間データ)と、それに関連付けられた様々な情報(属性データ)を、コンピューター上で統合的に管理し、高度な検索、分析、そして可視化を行うためのシステム全般を指します。
紙の地図では、道路や建物は単なる線や図形として描かれているだけです。
しかしGISの世界では、地図上のあらゆる要素が意味を持つデータとして扱われます。
例えば、一本の道路の線には「国道〇号線」という名称、「最高速度60km/h」という規制情報、「アスファルト舗装」という路面情報などが紐付いています。
これにより、ユーザーは「ガソリンスタンド」や「レストラン」といった条件で施設を検索したり、コンピューターが最適なルートを計算したりといった、紙の地図では不可能だった高度な利用が可能になるのです。
GISの仕組み:レイヤ構造
GISの強力なデータ管理能力を支えているのが「レイヤ」という概念です。これは、特定のテーマごとに情報を整理した透明なシートを何枚も重ね合わせるイメージで考えると非常に分かりやすいでしょう。
- 道路レイヤ:国道、県道、市道といった道路網の情報だけが描かれた層
- 建物レイヤ:商業ビル、住宅、公共施設などの形状や名称が描かれた層
- 行政界レイヤ:都道府県や市町村といった行政の境界線が描かれた層
- 地形レイヤ:山や川、湖といった自然の地形や土地の高低差が描かれた層
- 公共交通レイヤ:鉄道の路線や駅の情報が描かれた層
カーナビが「高速道路だけを色分けして表示する」あるいは「周辺のコンビニだけをアイコンで表示する」といった操作ができるのは、まさにこのレイヤ構造のおかげです。
必要なレイヤだけを表示したり、複数のレイヤを重ね合わせて「この地域の標高と道路の関係性」を分析したりと、目的に応じて自由自在に情報を組み合わせることができるのがGISの最大の強みと言えます。
このGISという強力な仕組みがあるからこそ、カーナビは単なる道案内ツールにとどまらず、私たちのドライブを多角的かつ知的にサポートする不可欠なパートナーとなり得るのです。
カーナビにおけるGISの役割と仕組み

カーナビゲーションシステムにおいて、GISは頭脳として機能し、主に3つの重要な役割、「現在地の特定(測位)」「ルート検索」「ルート案内」を担っています。
第一に、全ての基本となるのが「現在地の特定」です。これにはGNSS(全球測位衛星システム)が不可欠です。
GNSSは、米国のGPS、ロシアのGLONASS、欧州のGalileoなど、世界各国の測位衛星システムの総称です。
特に日本では、より高精度な測位を可能にするため、独自の準天頂衛星システム「みちびき(QZSS)」の運用が進められています。
みちびきは、日本のほぼ真上(準天頂)の軌道を周回する時間が長いため、山間部や高層ビル街など、従来のGPS電波が届きにくかった場所でも安定した測位が可能になるという利点があります。(出典:みちびき(準天頂衛星システム)公式サイト)
カーナビのGISは、これらの衛星から受信した信号を基に緯度・経度を算出し、デジタル地図上の正しい位置に自車マークを表示させます。
次に、カーナビの代名詞とも言える機能が「ルート検索」です。
これはGISの分析能力が最大限に発揮される部分です。
目的地を入力すると、GISは「ノード(交差点や分岐点)」と「リンク(ノード間を結ぶ道路)」で構成された膨大な道路ネットワークデータを解析します。
そして、各リンクに紐付いた距離、制限速度、交通規制、渋滞予測などの情報を基に、「ダイクストラ法」に代表される探索アルゴリズムを用いて、無数の経路パターンの中から「最短時間」「最短距離」「有料道路優先」といったユーザーの希望条件に合致する最適なルートを瞬時に導き出すのです。
「この交差点は12時から13時の間はスクールゾーンで進入禁止」といった時間帯による規制情報もGISデータに含まれています。
だからこそ、カーナビは常にその時点での最適なルートを提示できるのですね。
そして最後に、計算されたルートをドライバーに伝える「ルート案内」の役割があります。
走行中は、地図上にルートを分かりやすくハイライト表示するだけでなく、「約300m先、〇〇交差点を右方向です」といった音声ガイダンスや、複雑な交差点のリアルなイラストなどを、車両の進行状況に合わせて絶妙なタイミングで提供します。
これも、GISがGNSSから得られる現在地とルート情報をリアルタイムに照合し続けることで実現している、高度な処理なのです。
GISを応用したカーナビの便利機能

現代のカーナビは、基本的なルート案内に留まらず、GISの高度なデータ処理能力を応用した多種多様な便利機能を搭載しています。
これらの機能は、私たちのドライブ体験をより一層、快適で豊かなものへと進化させてくれます。
地点検索(POI検索)
「Point of Interest(興味のある地点)」の略で、特定のジャンルやキーワードから目的地や立ち寄り先を探す機能です。
例えば、「現在地から5km以内のイタリアンレストラン」や「進行方向にある最寄りのEV充電スタンド」といった、複合的な条件での検索が可能です。
これは、各施設の位置情報に加えて、業種、営業時間、サービス内容(Wi-Fiの有無、駐車場の収容台数など)といった詳細な属性データがGIS上で管理されているからこそ実現できます。
住所や電話番号からの目的地設定
これは古典的な機能ですが、GISの強力なデータベース検索能力の賜物です。
入力された住所や電話番号をキーとして、膨大な地図データベースの中から該当する座標を瞬時に特定し、目的地として設定します。
近年のモデルでは、郵便番号からの検索や、施設名称の一部を入力するだけで候補を表示するフリーワード検索にも対応しており、利便性が向上しています。
レーン案内や3D交差点拡大図
特に都市部の首都高速道路の分岐(ジャンクション)や、複数の車線が複雑に入り組んだ大規模な交差点で絶大な効果を発揮する機能です。
GISは、道路データに紐付いた車線ごとの進行方向情報(例:「左2車線が〇〇方面、右車線が△△方面」)を保持しています。
カーナビは、推奨ルートに基づいて走行すべき車線を判断し、グラフィカルなイラストや3D表示で直感的にドライバーに伝えます。
これにより、直前での危険な車線変更を防ぎ、スムーズで安全な走行を支援します。
その他にも、GISの応用機能は多岐にわたります。
例えば、高速道路のサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)に設置されているレストランのおすすめメニューや、ガソリンスタンドのブランド、充電スタンドの出力タイプといった詳細情報を事前に確認できる機能も、ドライブ計画を立てる上で非常に役立つGISの活用例の一つです。
GISがもたらすカーナビの3大メリット

GISという強力な技術をエンジンとすることで、カーナビはドライバーに対して主に「効率性」「安全性」「快適性」という3つの大きな価値(メリット)を提供しています。
第一に、効率性の向上です。
これはカーナビがもたらす最も直接的で分かりやすいメリットと言えるでしょう。
GISによる高精度なルート検索機能は、見知らぬ土地でも道に迷う無駄な時間を徹底的に排除し、目的地まで最短時間または最短距離で到達することを可能にします。
さらに、VICSなどから得られるリアルタイムの渋滞情報を活用し、混雑路を回避するルートを自動的に再探索することで、交通渋滞による時間的・精神的な損失を大幅に削減できます。
結果として、これは燃料消費の抑制、ひいてはCO2排出量の削減にも繋がり、経済的・環境的なメリットも生み出します。
第二に、安全性の向上です。運転中の「脇見」は交通事故の主要な原因の一つです。
カーナビは、音声案内や直感的な画面表示によって、ドライバーが地図を確認するために視線を逸らす時間を最小限に抑え、運転への集中を促します。
さらにGISデータベースには、一方通行、進入禁止、指定方向外進行禁止、速度制限といった交通規制情報が網羅されています。
警察庁の統計でも交通違反が事故の一因となるケースが報告されており、これらの規制箇所が近づくと事前に警告を発してくれる機能は、意図せぬ違反やヒューマンエラーによる事故を未然に防ぐ上で極めて有効です。(出典:警察庁 交通死亡事故の発生状況等)
その他にも、過去に事故が多発した地点や、冠水しやすいアンダーパス、急カーブなどの危険箇所を知らせる機能も、ドライバーの安全意識を高め、予防安全に大きく貢献します。
非常に便利なカーナビですが、その画面を運転中に注視することは「ながら運転」に該当し、大変危険な行為です。
運転中の操作は絶対に避け、あくまでも安全運転を補助するためのツールとして正しく利用することが大前提となります。
そして第三に、快適性の向上です。
道に迷うかもしれないという不安やストレスから解放されることは、精神的な負担を大きく軽減し、リラックスしたドライブを実現します。
目的地までの正確な到着予測時刻が分かるため、友人との待ち合わせやビジネスのアポイントメントなど、時間を守る必要がある場面でも計画的に行動できます。
また、周辺の観光スポットや人気のレストランを検索する機能は、単なる移動を「旅」へと昇華させ、ドライブそのものの楽しみを広げてくれるでしょう。
VICSや3D地図を支えるGIS技術

現代のカーナビの利便性を飛躍的に高めている二大要素、「VICS」によるリアルタイム情報と、視覚的な分かりやすさを追求した「3D地図」。
これらの高度な機能も、その根幹をGIS技術が力強く支えています。
VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)は、一般財団法人 道路交通情報通信システムセンターが運用する、渋滞や交通規制などの道路交通情報をリアルタイムにカーナビへ配信するシステムです。
情報は、FM多重放送、高速道路上に設置された光ビーコン、一般道に設置された電波ビーコンといった複数のメディアを通じて提供されます。
カーナビのGISは、これらの断片的なVICS情報を受信すると、それを即座に解析し、デジタル地図上の対応する道路(リンク)に情報を紐付けます。
これにより、「国道246号線の渋谷〜三軒茶屋間が渋滞中」といった情報を、地図上で赤色や橙色に色分けして視覚的に表示したり、その渋滞区間を回避する迂回ルートを自動で再検索したりすることが可能になるのです。
進化するVICS情報の種類
- VICS WIDE:従来のFM-VICSを高度化させたサービス。より広範囲の渋滞情報に加え、実際に走行している車両から収集した「プローブ情報」を統計処理した、より精度の高い旅行時間情報や、ゲリラ豪雨などの気象・災害情報も提供します。
- ITSスポット(高度化光ビーコン):高速道路を中心に整備が進む情報提供サービス。従来の光ビーコンより大容量の通信が可能で、前方数百メートル先の交通状況や合流支援情報などを提供し、より安全な運転を支援します。
一方、3D地図は、地図をより現実に近い形で表現する技術です。
GISは、地図データとして道路や河川といった平面的な情報だけでなく、建物の形状や高さ、土地の標高といった三次元のデータも管理しています。
カーナビはこれらのデータを基に、鳥瞰図(バードビュー)のような視点で地図を描画したり、主要なランドマーク(東京タワーや駅ビルなど)をリアルなポリゴンモデルで表示したりします。
これにより、特にビルが密集する都市部や、立体交差が連続するジャンクションなどでも、自車の位置や進むべき方向が直感的に把握しやすくなるという大きなメリットがあります。
GISで実現する正確な渋滞予測

多くのドライバーが経験する交通渋滞。
カーナビの渋滞回避能力は、その価値を大きく左右する重要な機能です。
この賢い渋滞予測も、GISによる膨大なデータの蓄積と高度な分析技術によって実現されています。
カーナビの渋滞予測は、単に「今」混んでいる場所を示すだけではありません。
その真価は、「未来」の交通状況を予測する点にあります。
この予測の根幹を成すのが、カーナビメーカー各社が長年にわたって蓄積してきた過去の膨大な交通データ(ビッグデータ)です。
具体的には、VICSから得られる公的な交通情報に加え、ユーザーの許可を得て収集した個々の車両の走行履歴データ(これは「プローブ情報」と呼ばれます)がデータベースに集約されています。
GISは、この数テラバイトにも及ぶビッグデータを統計的に分析します。
そして、「〇月の第三金曜日の夕方18時台は、首都高速3号線のこの区間で渋滞が発生しやすい」「お盆休みの初日の午前中は、この高速道路の下り線が混雑する」といった、日付、曜日、時間帯、季節ごとの詳細な渋滞パターンをモデル化します。
ユーザーがルート検索を行うと、GISは現在の日時とカレンダー情報を基に、この統計モデルを呼び出します。
そして、これから走行するルート上の各道路が、通過するであろう未来の時刻にどの程度混雑するかを予測し、それを加味した上で最も早く到着できると考えられるルートと、信頼性の高い到着予測時刻を算出するのです。
「今はスイスイ流れているけど、この先の区間は1時間後に渋滞が始まる予測なので、今のうちにこちらの迂回路を使った方が結果的に早く着きますよ」と、カーナビがまるで未来を予知したかのような提案をしてくれるのは、この統計的渋滞予測のおかげなんですね。
さらに、最新のカーナビでは、この統計的な予測と、VICS WIDEなどから得られるリアルタイムの事故・規制情報をインテリジェントに組み合わせます。
例えば、予測モデルにはない突発的な事故による渋滞が発生した場合はリアルタイム情報を最優先し、一方で、毎日の通勤ラッシュのような定常的な混雑は統計予測を重視するなど、状況に応じて最適な情報処理を行うことで、極めて精度の高いルート案内を実現しています。
進化するカーナビ GIS技術の選び方と未来
- カーナビの精度は「地図データ」とGISで決まる
- スマホナビと専用カーナビのGIS活用の違い
- GISの視点で選ぶカーナビのポイント
- 「自動運転」の鍵を握るGISの未来
- まとめ:最適なカーナビ GISで快適なドライブを
カーナビの精度は「地図データ」とGISで決まる

カーナビゲーションシステムの性能、特に案内の正確さを決定づける二大要素は、搭載されている「地図データ」の品質と、そのデータを処理するソフトウェアである「GISエンジン」の性能です。
この二つは車の両輪のような関係にあり、どちらか一方の性能が低いと、もう一方のポテンシャルも最大限に発揮されません。
まず「地図データ」は、カーナビの知識の源泉です。
ここには、航空写真の解析や専門の調査員による現地調査(例えば、一方通行の標識や中央分離帯の有無などを実際に目で見て確認する)を経て作成された、極めて詳細な情報が格納されています。
しかし、道路は日々新しく開通し、商業施設は移転や閉店を繰り返します。
そのため、地図データの「鮮度」がルート案内の質に直結します。
古いデータのままでは、新しく開通した便利な高速道路を無視したルートを案内したり、既になくなった施設を目的地に設定してしまったりする可能性があるのです。
多くのメーカーが有料・無料の地図更新サービスを提供しているのは、この鮮度を維持するためです。
一方の「GISエンジン」は、その膨大な地図データをいかに賢く、そして速く処理できるかという、カーナビの「思考力」や「判断力」を司る部分です。
代表的な機能として、GPSの弱点を補う「自車位置測位技術」が挙げられます。
GPSの電波が届かないトンネル内や、電波がビルに反射して誤差が大きくなる都市部において、車両から送られる車速パルス(タイヤの回転数)やジャイロセンサー(車両の向きの変化)からの情報を基に、自車の位置と進行方向を推定し続ける能力は、まさにGISエンジンの性能そのものです。
高精度な案内を支えるマップマッチング技術
GPSによる測位には、数メートルから数十メートルの誤差が常に伴います。
そのため、GPSが示す座標が道路からわずかに外れてしまうことは日常茶飯事です。
この測位結果のズレを、地図上の最も走行している可能性が高い道路上にピタッと補正する技術がマップマッチングです。
この処理の精度が低いと、高速道路と並走する一般道を走行しているのに、カーナビ上では高速道路を走っていると誤認識され、不正確な案内がされてしまうことがあります。
これもGISエンジンの非常に重要な役割なのです。
結論として、カーナビの精度とは、高品質で新鮮な「地図データ」という知識と、それを的確に解釈し、リアルタイムで応用する優秀な「GISエンジン」という知能、この両輪が完璧に噛み合って初めて実現されるものなのです。
スマホナビと専用カーナビのGIS活用の違い

今日、カーナビゲーション機能は専用機だけでなく、多くの人が日常的に利用するスマートフォンアプリ(スマホナビ)でも手軽に利用できます。
どちらもGIS技術を中核としていますが、そのアーキテクチャや得意分野には明確な違いがあり、一長一短が存在します。
スマホナビの最大の強みは、情報の「リアルタイム性」と「鮮度」です。
常にモバイルデータ通信でインターネットに接続しているため、地図データはクラウド上で管理され、ユーザーは意識することなく常に最新の状態で利用できます。
また、Googleマップのように、他の多くのユーザーの移動速度から生成されるリアルタイムのプローブ交通情報が利用できるため、渋滞情報の精度が非常に高いのが特徴です。
多くのアプリが無料で提供されている点も、大きなアドバンテージと言えるでしょう。
対照的に、専用カーナビの最大の強みは、自車位置測位の「安定性」と「高精度」にあります。
スマホが測位をGNSS(GPS)電波にほぼ全面的に依存するのに対し、専用機は車両本体から車速パルス(タイヤの回転数に応じた信号)やジャイロセンサー、加速度センサーといった情報を直接取得します。
これにより、GNSSの電波が受信できない長大トンネル内や、電波が乱反射する高層ビル街でも、車両の動きを基に自車の位置を高い精度で把握し続ける「自律航法」が可能です。
この安定性は、ルート案内の信頼性に直結します。
両者の主な違いを以下の表にまとめました。
項目 | 専用カーナビ | スマホナビ |
---|---|---|
自車位置精度 | ◎ 非常に高い(車速センサー等と連携した自律航法) | △ GNSSに依存(トンネル、ビル街、山間部で不安定になりやすい) |
地図データの鮮度 | △ 定期的な手動/自動更新が必要(有償の場合が多い) | ◎ 常に最新(クラウド上で自動更新) |
リアルタイム情報 | ○ VICS WIDEや通信機能で取得 | ◎ 非常に強い(プローブ交通情報など情報量が豊富) |
画面サイズ・操作性 | ◎ 大画面で見やすく、車載用にUIが最適化されている | △ 画面が比較的小さく、運転中の操作は危険で法律違反の可能性 |
価格 | △ 高価(数万円~数十万円) | ◎ 無料または安価(月額数百円程度) |
弱点・注意点 | 地図更新の手間とコスト | データ通信量の消費、バッテリーの激しい消耗、夏場の熱暴走、電話着信による案内中断のリスク |
このように、どちらか一方が絶対的に優れているというわけではありません。
例えば、長距離ドライブや初めて訪れる場所へ行くことが多いドライバーにとっては、測位精度の高い専用カーナビが心強い味方になります。
一方で、主に使い慣れた市街地を走行し、最新の店舗情報やリアルタイムの渋滞情報を重視するなら、スマホナビで十分な場合も多いでしょう。
自身の利用スタイルに合わせて最適なツールを選択することが重要です。
GISの視点で選ぶカーナビのポイント

カーナビを新たに購入または買い換える際、デザインや価格、画面サイズといった表面的なスペックだけでなく、その根幹をなすGIS技術の視点から製品をチェックすることで、長期的に満足できる、本当に「賢い」一台を見つけることができます。
1. 地図データの更新頻度・方法・料金
前述の通り、地図データの鮮度はカーナビの生命線です。
新しい道路がいつまでも反映されないカーナビは、宝の持ち腐れになりかねません。
「年に何回更新されるのか」「更新は自動か手動か」「無料更新期間は何年か、その後はいくらかかるのか」といった地図更新のサービス内容は、購入前に必ず詳細に確認すべき最重要項目です。
近年では、Wi-Fiに接続して差分データだけを自動でダウンロードしてくれるモデルもあり、更新の手間が大幅に軽減されています。
2. 自車位置測位システムの精度と対応衛星
特に専用機を選ぶ際は、高精度な測位を支えるセンサーの種類が重要です。
従来のジャイロセンサーや加速度センサーに加え、上下方向の動きも検知する「6軸モーションセンサー」を搭載したモデルは、道路の傾斜を正確に把握し、複雑な立体交差で高架道路と地上の一般道を正確に区別する能力に長けています。
また、日本の準天頂衛星「みちびき(QZSS)」に対応しているかも重要なチェックポイントです。
対応モデルは、特に山間部やビル街での測位安定性が向上します。
3. 渋滞情報の種類とルート探索への反映度
リアルタイムの交通情報をどれだけ賢く活用できるかは、カーナビの「知能」を測るバロメーターです。
広域かつ詳細な情報が得られる「VICS WIDE」への対応は今や必須と言えるでしょう。
それに加え、メーカー独自のプローブ情報を活用した渋滞予測サービス(例:パイオニアの「スマートループ」)に対応しているかどうかも大きな違いを生みます。
これらの情報を単に地図上に表示するだけでなく、積極的に分析して賢い迂回ルートを提案してくれるか、その「渋滞回避アルゴリズム」の性能も、製品レビューなどで確認したいポイントです。
カタログスペックだけでは判断が難しい「ルート案内の賢さ」については、自動車評論家によるレビュー記事や、実際に使用しているユーザーの口コミを参考にしてみるのが非常におすすめです。
自分と似たような使い方をしている人の評価は、特に参考になりますよ。
4. UI(ユーザーインターフェース)と処理速度
どれだけ高機能でも、操作が複雑で分かりにくかったり、動作が遅かったりするとストレスの原因になります。
地図のスクロールや拡大・縮小がスムーズか、目的地検索の文字入力はしやすいか、ルート計算やリルートの速度は速いかなど、実際に店頭でデモ機に触れて、直感的な操作感とレスポンスの良さを体感してみることをお勧めします。
「自動運転」の鍵を握るGISの未来

これまでドライバーを支援する役割を担ってきたGIS技術は今、自動車産業最大の技術革新である「自動運転」を実現するための、不可欠な中核技術へとその重要性を増しています。
自動運転システムは、車両に搭載されたカメラ、ミリ波レーダー、LiDAR(ライダー)といったセンサー群が「目」となり、周囲の車両や歩行者、障害物をリアルタイムに認識します。
しかし、これらのセンサーが認識できる範囲には物理的な限界があり、悪天候(豪雨、濃霧、雪)や、先の見通せないカーブなどでは、その性能が著しく低下する可能性があります。
センサーの「目」だけでは、安全な完全自動運転は実現できないのです。
そこで決定的に重要になるのが、センサーの限界を補うための「頭脳」と「地図」、すなわちGIS技術と、それによって構築される高精度3次元地図データ(通称:HDマップ)です。
これは、従来のカーナビ用地図とは次元の異なる情報密度を持つ、まさに「道路空間のデジタルツイン(現実空間の情報を、そっくりそのままサイバー空間上に再現する技術)」と呼ぶべきものです。
HDマップには、車線の中心線や境界線がセンチメートル単位の精度で記録されているだけでなく、道路の勾配やカント(カーブでの傾き)、ガードレールや縁石の正確な位置・形状、さらには道路標識や信号機の位置といった、道路周辺のあらゆる静的情報が三次元データとして格納されています。
HDマップとGISが実現する自動運転
自動運転レベル3(条件付き自動運転)以上のシステムでは、車両はセンサーで取得した現実世界の情景と、GIS上で管理されているHDマップの情報をリアルタイムに照合します。
これにより、自車が車線のどの位置を、どのような向きで走行しているかを極めて正確に把握(高精度自車位置推定)します。
この正確な自己位置認識があるからこそ、システムは先のカーブの曲率を予測して適切に減速したり、ETCレーンを正確に通過したりといった、人間が行うような滑らかで安全な運転操作を実行できるのです。
将来的には、この静的なHDマップに、リアルタイムの交通情報、事故情報、落下物情報、天候、信号機の灯火情報といった動的な情報を統合した「ダイナミックマップ」へと進化していくと考えられています。
カーナビゲーションから始まったGIS技術は、今やMaaS(Mobility as a Service)時代の安全で効率的なモビリティ社会を根底から支える、極めて重要な社会基盤技術へと進化を遂げているのです。